大いに食べてこそ回復した産後の体型

2011-03-05

女の体になってからこのかた、最も細く身が引き締まり、道端でよく口笛を吹かれたことからしておそらく最もフェロモンが盛んに放出されていたと推定される二十六歳の夏、私は初めての子を宿すこととなりました。さあ、それから私はまた新たに、以前とは勝手の違う、コントロールの利かない状況と格闘する日々を送ることとなるのです。果たして産後に、妊娠前の体型を取り戻せるのか?−それこそは、九〇年代以降の妊婦にとって最重要ランクの関心事に違いありません。何しろ、出産をキッカケに体型が崩れて中年太りへまっしぐら、という伝統的なオバサン化コースを忌み嫌い、産後も若い娘時代の続きのような体型を保ち、「これで子供がいるなんてウソみた〜い」とお愛想を言われることが、私たち共通の望みなんですから。とにかく、出産予定日まで正味八ヵ月間の妊娠期間中は、自分の体はすなわちお腹の子へ送る栄養パイプ、さらに産後約一年間の授乳期間中は、赤ん坊ご用達のミルクータンクであることに徹しなければなりません。その間は、わが体型かわいさのダイエットなんてもってのほかそう覚悟して母子手帳を受け取った私でしたが、予想に反して食欲が一向に湧き上がりません。というのも、つわりが人一倍激しかったせいで、一時は点滴のため入院するハメとなり、安定期に入ってもなお、産み落としてしまうまで軽い吐き気が続いていたもので、むしろ妊娠前より食が細いぐらいだったのです。ところがその悩みを定期健診で訴えると、お医者はなんと「それでいいんですよ」と、のたまうではありませんか。何でも。「妊娠中にドンドン食べなさいと言ったのは、今より食糧事情が悪かった時代の話で、今は元々栄養が十分足りていますから、むしろ体重が増え過ぎないように、ダイエットをお勧めしているくらいなんですよ」という話。。妊婦にダイエットだなんて、何とも不似合いな取り合わせ。ただしこれには病気予防上の大義名分がありまして、出産までに体重が一五キロや二〇キロ以上といったスケールで大幅増量した女性は、「妊娠中毒症」に陥る率が高いのだそうです。この状態になるとまずラクなお産は望めず、最悪の場合は胎児・母体ともに死の危険があるといいます。で、それを避けるためと言いながら、お医者さんたちが掲げ始めた「理想の増加体重」というのが「五キロから七キロ」。この数字の内訳は、(胎児の体重約三キロ)十(羊水や胎盤など後産までで出てくる分1キロ)+(出産に必要なエネルギーとしての皮下脂肪の蓄え1キロの必要最低限数字にプラスニキロまで、という組み立てでした。なるほどこれなら、産んだトタンに体重は元通り、ですな。「多くても10キロ程度の増加に抑えて下さいよ」と釘を刺されたものです。しかしお医者さんの計算した予測コースをもはずれて進んでいくのが、現実の体というものです。食べたくてもあまり食べられずに吐いてしまう、ダイエット要らずの状態でありながらなお、私の体重増加は、しめて最低限の倍の一〇キロとなり、お腹の子に栄養を奪われてなお、私自身の脂肪も「必要分」を超えてしっかり蓄えられたのです。まさに女の体は、「子を産む」という目的を確実に果たすために、「ため込む」働きが高度に発達した性なのだということを思い知らされました。さて、伸びて余ったお腹の皮を、元の形に収めるための段階別ウェストニッパーも抜かりなく買い揃えて出産を迎え、晴れて授乳ママとなってからが「体型回復」を目ざす日々の始まりです。気がつけば、エステの広告や、育児雑誌の特集見出しまでもが、こぞって(産後の体型回復は半年が勝負!それを逃すと手遅れに)などと「産後ダイエット」の必要性をあおっています。出産直後は骨盤が開いた状態だから普段より太りやすいハズ、という理屈は知っていました。緩んだ骨盤の開き具合が元通りに収まるのに半年から一年、だからその間には油断して食べ過ぎないよう引き締めてかかれ、とおっしゃりたいのはわかるのですな。ただしこちとら、わが子を産み落としたトタンに魔法のように吐き気もかき消えて、体力の回復につれて遅ればせながら食欲が湧き上がってきたので、それどころじゃナイ。何せ会社勤めも出産前に辞めてしまい、一日中家にいるものですから、昼となく夜となく、いまだかつてないほど間食にも手が伸びます。これじゃあまるで、今が妊娠中みたいじゃないの男一とはいえ、自前のオッパイ主体で子育て中は、お腹がすくのは当たり前。とにかく乳離れまでは、ヘタにダイエットなどして乳不足を招く気はありませんでした。実際、母乳の出が特に盛んな体質の人なら、この時期、どんなに食べても食べるそばからオッパイと化して、ダイエットするまでもなくヤセ細っていきます。ただし私の場合は、出る量が、大柄で食欲旺盛なわが息子には間に合わない程度のソコソコだったので、ヤセ細る効果はありませんでしたが。そうこうしているうちに、私を焦らせる情報が耳に入ってきます。妊婦仲間と電話で近況交換などやっていると、彼女たちの誰もが半年経った頃に「ヨカッタ、体重が妊娠前ぐらいに戻った」と言ってきたんですね。その中でも、産後二ヵ月で赤ちゃんを保育所に預けて会社に復帰した友人の場合なら、活動量がドッと増えるワケですから、みるみる元通りになるのは納得いくのですが、私同様、親との同居の気苦労も無く、一日中自宅周辺で過ごす生活パターンの友人たちさえもそうだと聞いた時には、ひっくり返りました。何しろ私はと言えば、半年過ぎたその時も、お産当日に赤んぼと胎盤を出し終えて一度にドサッと五キロ落ちた、その体重のままだったのですから!そこで私は考えました。独身時代にダイエットなしでヤセられたのはきっと、活発にあちこち動き回れた、その時の生活パターンだからこそできた事なんだ。今となってはそんなの再現できないんだから、なにか体を後押しするテコ入れが必要なんじゃないの?そうそう、今はいつもと違う。非常時なんだから……。−というわけで私は、息子が一歳の誕生日間際に無事オッパイを卒業するやいなや、捨てたハズのダイエットに飛びついたのです。手始めは、各種ビタミンーミネラルを確保しながら摂取カロリーをグッと抑えるという、ご存知ダイエットの代表パターン。一つはその頃、お医者さんのおススメとやらで静かに宣伝が始まっていた「マイクローダイエット」食事の代わりにフレーバー付き粉末をミルクに溶かして飲む、アレです。それから、三食のうち一食を、カロリーメイトー箱四百キロカロリー也に置き換えるというのもやってみました。ところがどれもこれもご二日坊主どころか、なんと一日ももたずに挫折したんですね。その昔、拒食で鳴らしたアタシが、変われば変わるもんだよ、と情けな笑いのその奥に、なにやらご」れでイイんだよと愉快に感じる気持ちがありました。よし、じやあ極端なダイエットはしないで、今の活動量に合わせて全体的に食を細くするよう心がければいいか、と考え直して、(食事は粗食に・間食はナシ)とルールを決めました。とまたこれが、守れないどころか昔の過食発作が再発して、あの頃は深夜に駆けつけたコンビニへ、今度は真昼に通い始める始末。いったい、どうすりやいいってのよ、と私は腹を括りました。こうなったら、トコトン食べてやろうじやないの。三食も、間食も、自分がどこまで食べきれるものだか、食べまくってやる。l‐開き直ってそれから一年、この間に産後一年過ぎてもビクともしなかった私の体重とウエストやヒップのサイズは、何のことなく減り始めて元通りに収まったのでした。そうです、またしてもダイエットと逆の行動を取ることで私はヤセられたのですね。こうして三十代を迎えた私は、十代の頃より明らかに、食べる量は多く、運動量は少ない。なのに、十代の頃よりヤセています。食事制限もせず、なんのサプリも飲まず、スポーツクラブにもエステにも行かず、家事と自宅で机に向かっての仕事のほかの運動といえば、学生時代からの趣味で習慣化している、気ままペースのヨガぐらいでしょうか。けれどこれも私の場合、ヤセる下心で試し始めた頃には、ヤセるキッカケにはなりませんでしたし、長続きもしませんでした。むしろ、ヤセ始めたあとになって、体と心が。自分にとって、より心地よいものを求める習慣がついてから、好んでやるようになりました。いつも何かのダイエットをしていた頃、私の平熱はずっと三五度台でした。それがダイエットしない生活になじんだ今は、三六度五分前後にまで上がっているのだから驚きです。もちろん、「代謝を高めるダイエット」なんてやることナシに、ね。さて、ここまでご紹介してきた体験は、「たまたまの偶然」だとか「私の体質に限ってそうなった」と言って片づけられるものではありません。ここには、現代の科学的常識の中ではあえて語られていないけども、人の体に共通の働きと言えそうな、普遍的な命の法則が幾つも埋め込まれています。巷のダイエットでは、なぜヤセられず、それに逆行した私がなぜ何度もヤセられたのか?−繰り返された魔術のそのワヶを、次章で筋道立てて解き明かしておみせしますので、どうぞお楽しみに。ダイエットーブーム開始以前の一九七〇年代から、バブル景気も弾けた九〇年代半ばまでかけて、私かさらい尽くしたダイエット法を大きく分類すると、次のようになります。二十一世紀の今でも、わずかな例外を除けば、世にあるダイエット法というのは大体、この中のどれかに収まることがわかるでしょう。A、食事制限のプログラム?摂取カロリー制限型(単品ダイエットもこれ!)〈例〉マイクローダイエット?特定の栄養素の制限型○炭水化物ぬきダイエット〈例〉低炭水化物ダイエット、リセットーダイエット○脂肪分ぬきダイエット〈例〉リセットーダイエット?体を温めたり基礎代謝を高める特定食を摂る型〈例〉根菜スープB、「食事制限ナシで」とうたうもの?ヤセ薬……正しくは「健康補助食品」○。ヤセる成分たっぷりの錠剤・粉末・ドリンクなど形は色々?ヤセたい部分に刺激(=発汗促進、マッサージなど)を与える器具、もしくはクリーム・ジェルなどのコスメ○自宅で使うホームーエステ型○人の手でやってもらうエステーサロン型C、美容体操?消費カロリーを稼ぐ型?筋肉量を増やして基礎代謝を高める型?骨格の歪みを矯正して老廃物を溜まりにくくする型色々と目先は変わっても、「ダイエット」という考え方自体に、人をヤセにくくさせてしまう仕掛けが織り込まれている、という真実には変わりありません。何べんダイエットにチャレンジしても失敗してしまう自分を。ダメな私と責め続けているあなた、悪いのはあなたじゃないのだから、もう気に病まないで。

[関連情報]
http://www.ievp.org/list02.html


http://www.broest.com/tips02.html


http://www.benibana.info/