エビの天ぷらを具に入れたおむすび「天むす」は、現在では名古屋名物として広く知られている。ところが、じつは天むす発祥の地は、名古屋ではなく、三重県津市なのである。発祥の店となった津市大門にある専門店「千寿」に聞いてみたところ、もともと天むすは一般向けのメニューではなく、「まかない料理」として考えられたものだという。かつて千寿は天ぷら屋だった。店はかなり繁盛していたため、店主は昼食をとる時問もないほど忙しかった。そこで、奥さんが簡単に短時間で食べられるまかない料理として、エビの天ぷらを具に入れたおむすびを夫に出してみた。すると、これが想像以上に美味しいではないか!「それなら店のメニューにしてみよう」と、昭和三十二年から本業の天ぷらメニューの中に、「天むす」を加えたのである。発売当初の値段はひとつ二五円程。あんぱんが一個一〇円程度の時代だったから、けっして安くはなかったが、それでも意外な組み合わせと味の良さが受けて、天むすはどんどん売れた。こうして千寿は、天むす発売から二年もしないうちに、天むす専門店となったのである。では、どうして津市生まれの天むすが、名古屋名物として有名になってしまったのだろうか。その大きな要因は平成十七年に開催された愛知万博にある。愛知万博では天むすが、名古屋市周辺で発祥したとされる食事の総称である「名古屋めし」として紹介された。それが大人気となったために、天むすは名古屋名物として知られるようになり、それ以降、名古屋には次々に天むすの店が誕生したのである。一方、津市にある天むす専門店は発祥の千寿のみ。その千寿では店に来る客の八割が持ち帰り客であることから、できあかってから食べるまでに時間が経っても味が落ちないように、天ぷらに使用する油にこだわって、通常の小売店では手に入らない特別な油を使っているという。また、遠方の人々でもその味を楽しめるように、最近では冷凍の天むすも発売している。
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